電子書籍の知識

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執筆:金子浩美

最終更新:2010年9月6日

電子書籍とは

電子書籍を読みために必要なもの

電子書籍用端末

電子書籍用リーダー

電子書籍のデータ形式

電子書籍とは

「電子書籍」についての明確な定義は、現在のところないというのが現実です。しかし、電子書籍の定義について確立はしていないものの、ある程度の方向は定まっていると考えてよいでしょう。その例として、日本出版学会の理事などを務める湯浅俊彦氏が著書『電子出版学入門?出版メディアのデジタル化と紙の本のゆくえ』(出版メディアパル、2009年)の中で「電子出版の定義」として挙げている内容の要約を紹介します。

 

  1. 編集過程の電子化
    本や雑誌を編集する過程を電子化したもの。
  2. CD-ROM出版
    辞典などをCD-ROMに収録したもの。
  3. 電子ブック
    ソニーが発売した「データディスクマンDD-1」のような電子ブック。
  4. オンライン出版
    インターネット経由で出版コンテンツを配信するオンライン出版。
    現在では、電子出版といえば、このビジネスモデルを指す。
  5. オン・デマンド出版
    デジタル化された出版コンテンツを必要な部数だけ紙に印刷する出版形態。
    最近では、電子出版ではなく、出版印刷の進化形とみるほうが一般的。

 

 当サイトでは、この考え方に準じて、オンライン出版が電子出版であると考えたいと思います。また、電子出版で取り扱われるコンテンツを「電子書籍」としたいと思います。

電子書籍を読みために必要なもの

 電子書籍を読むために最低限必要な要素として、電子書籍を表示できる機器(端末)と電子書籍そのもの(データ)が挙げられます。
 端末は、電子書籍専用に作られているかどうかで専用端末と汎用端末に分けることができます。専用端末とは、電子書籍を読むために設計された機器で、最近の例ではAmazonのKindle(キンドル)が有名です。一方、汎用端末とは、タブレット型コンピューター(ペン入力が可能な携帯用薄型コンピューター)、スマートフォン(高機能な携帯電話)、ノート型やデスクトップ型などのパーソナルコンピューター(PC)などです。汎用端末の場合、一般に電子書籍リーダーと呼ばれるソフトウェアをインストールすることで、電子書籍を読めるようになります。タブレット型コンピューターではAppleのiPadが、スマートフォンでは同じくAppleのiPhoneが電子書籍を読める汎用端末として注目されています。
 電子書籍のデータは、データ形式(フォーマット)などの違いから何種類かがあります。電子書籍の普及が一番進んでいると考えられるのはアメリカですが、そのアメリカで普及しているのが、電子出版の業界団体であるIDPF(International Digital Publishing Forum)が開発したEPUB(イーパブ)と呼ばれるフォーマットです。このほか、書籍だけでなく文書の電子化を目的に開発され、すでに普及しているフォーマットにAdobeのPDFがあります。iPad向けのリーダーであるiBooksの最初のバージョン(1.0)はEPUBだけしか読めませんでしたが、次のバージョン(1.1)では、PDFも読めるようになりました

電子書籍用端末

 前述のように電子書籍を読むための端末は、専用端末と汎用端末に分けることができます。専用端末の長所としては、用途が限定されていることから、電子書籍を読むのに必要な機能に絞り込むことができるので、価格のほか、端末の大きさや重さを抑えることができます。一方、汎用端末の長所としては、電子書籍を読む以外の用途にも使えるという点を挙げることができます。

専用端末:Kindle

 電子書籍の専用端末の代表は、現在のところAmazonのKindleと考えられます。Kindleの最初のモデルは、2007年11月にアメリカで発売されました。2009年2月には第二世代、同年6月にはディスプレイを大きくした上位モデル(Kindle DX)も発売されました。ディスプレイには、E Inkというバックライトを使用しない電子ペーパーをしているため、目が疲れにくいという長所があります。Kindle DXを除く2モデルは、いずれも6インチ、600×800ピクセルで、第一世代は4階調、第二世代は16階調となっています。また、Kindle DXは、9.7インチで824×1200ピクセルのE Inkを採用していますが、ディスプレイを大型化したため、その分、本体の寸法も重量も増えてしまいました。ちなみに、Kindleの第二世代は、寸法が203.2×134.6×9.1mm、重量が289g、Kindle DXは、寸法が264×183×9.7mm、重量が536gとなっています。第二世代からは、日本語の表示にも対応しており、日本からは、アメリカのAmazonのWebサイトにアクセスすることで注文できます。
 2010年8月には、第三世代が発売されました。ディスプレイは6インチのままで、寸法を21%小さくするほか、重量を15%軽くしています。また、ネットワークへの接続はWi-Fiだけで携帯電話網への接続ができないKindle Wi-Fiという廉価版も同時に発売しました。通常版は189ドル、廉価版は139ドルという価格設定で、販売数拡大に向けた施策と考えられます。
 ところで、Kindleの販売数は発表されていません。しかし、2010年7月、Amazonの2010年上半期の電子書籍の売り上げが、前年同期の3倍になったという発表がありました。電子書籍の売り上げが縮小することは考えにくいので、Kindleの廉価版が登場ともあいまって、Amazonの電子書籍の販売はさらに拡大すると考えてよいでしょう。

専用端末:Reader

 ソニーのアメリカ法人が発売している専用端末です。ソニーは、2004年から電子書籍専用端末を日本でも発売していましたが、国内市場からは2008年に撤退しています。一方、アメリカ市場では、供給を継続し、2009年にはKindleに対抗しうる端末を発売しています。2009年12月に発売したReader Daily Editionは、Kindleと同様に携帯電話網に接続できる機能を搭載し、端末側で電子書籍の購入が可能です。さらに、2010年9月に発表した3台の新機種は、いずれもフルタッチスクリーンを搭載しています。また、国内への供給を再開する意向を発表しているので、近いうちに目にすることができるようになると考えられます。

汎用端末:iPad

 電子書籍も読める汎用端末で現在最も注目を浴びているのは、AppleのiPadでしょう。iPadは、いわゆるタブレット型コンピューターで、2010年4月にアメリカで発売が開始されました。9.7インチで768×1024ピクセルのカラー液晶を採用し、ノート型PCと同等の表示性能を備えています。2007年6月から発売が始まったスマートフォンのiPhoneシリーズと同じ基本ソフトウェアを採用し、iPhoneと同様な操作が可能となっています。寸法は242.8×189.7×13.4mm、重量が680g(Wi-Fiモデル)で、寸法も重量も、日常的に持ち歩いて電子書籍を読むには、少々大きく重いのではないでしょうか。Appleも携帯用というよりリビングで使用することを想定しているようで、2010年1月の製品発表会では、リビングをイメージしたセットでデモが行われました。
 iPadを取り上げたニュースや記事には、電子書籍用端末という側面に注目したものが多かったように見受けられます。しかし、マクロミルが2010年6月にiPadユーザー300人に対して行ったアンケートの結果を見ると、使い方の第1位がWebサイト閲覧で88%、第2位が電子書籍の閲覧で74%、第3位がメールで65%でした。また、使用場所は、第1位が自分の部屋で66%、第2位がリビングで47%でした。まだ十分な数の電子書籍が出回っていないことがあるかもしれませんが、マスコミの予想とは違う結果となっているようです。

汎用端末:iPhone

 2007年6月から発売が始まったiPhoneは、日本国内で最も普及している持つスマートフォンとなりました。すでに数多くの電子書籍がiPhone向けアプリケーションとして提供されており、多くのユーザーがiPhoneで電子書籍を読んでいると考えられます。電子書籍用端末としてiPhoneを見たときに最大の長所と考えられるのが、その寸法と重量です。iPhoneの第四世代は、寸法が115.2×58.6×9.3mm、重量が137gとコンパクトで、3.5インチ、960×640ピクセルの液晶ディスプレイを搭載しています。ちょっとした空き時間や通勤電車の中などで電子書籍を読むには最適な寸法と重量でしょう。一方、じっくりと腰を落ち着けて読むにはディスプレイが小さいと感じられるかもしれません。
 iPhoneをはじめとするスマートフォンは、大きな端末を持ち歩かなくても電子書籍を読めるというのが最大の長所と考えられ、今後も一定の利用者数を維持し続けるでしょう。

汎用端末:パーソナルコンピューター

 電子書籍の歴史は、パーソナルコンピューター(PC)から始まったと言ってよいでしょう。例えば、PDFを作成するアプリケーションであるAcrobatの最初のバージョン(1.0)は、1993年、PC向けにリリースされました。なお、PDFの日本語対応はバージョン1.2(Acrobatはバージョン3.0)からで、1996年のことでした。また、電子書籍の販売などを行う老舗の電子書店パピレスは、1995年に営業を開始しましたが、当初はパソコン通信で電子書籍の配信を行っていました。これは、PCで電子書籍を閲覧することを意味しています。
 電子書籍用端末として考えた場合、PCは使い勝手が良いとは言えません。デスクトップ型の場合、PCを設置してある場所でしか電子書籍を読めませんし、ノート型の場合でも、設置場所の制約からは解放されるものの、寸法と重量やバッテリーの持ち時間などのハンデがあります。また、電子書籍の閲覧には必要ない、数多くのキーがあるほか、マウスなどでの操作が必要になるなど、操作性も良いとは言えません。
 使い勝手の面から考えると、PCが電子書籍用端末として利用される割合が、今後高くなるとは思えません。一方、他の端末、特に小型の端末と連携して、電子書籍データのバックアップなどを行うには最適なので、電子書籍の普及拡大に伴って、そのような役割が増えるかもしれません。

これから登場する端末

 開発が表明され、すでに試作機などが公開されている電子書籍用端末のいくつかを取り上げます。
 富士通が開発を行っているFLEPia(フレッピア)は、8インチ、768×1024ピクセルのカラー電子ペーパーを搭載した端末です。カラー電子ペーパーの搭載は、世界初となります。重量は約360gで、本体の厚みは12.5mmと、携帯性を失わない寸法、重量となっています。通信機能はWi-FiとBluetoothを搭載するほか、携帯電話を接続することで、ダイヤルアップ接続が可能です。電源を切っても表示が保護されるカラー電子ペーパーを使用していることから1回の充電で約40時間の連続使用が可能となっています。実質的に電子書籍専用端末と考えてよいでしょう。FLEPiaは、カラー電子ペーパーの採用が最大の特長で、この点での優位性はあると考えられますが、それよりも、対応するフォーマットや配信システムが普及の鍵を握っていると思われます。
 NEC(日本電気)が開発を行っているLifeTouchは、7インチ、800×480ピクセルの液晶ディスプレイを搭載した端末です。寸法は約219×119×13.9mmで、重量は約400gです。通信機能はWi-FiとBluetoothを搭載しています。LifeTouchは、NECが「クラウド端末」と言っていることからも汎用端末と考えられます。LifeTouchが電子書籍用端末としてのシェアを確保できるかどうかは、電子書籍を配信する側が、LifeTouchに対応するかどうかにかかっていると思われます。
 シャープは、2010年7月にタブレット型の電子書籍端末を発表しました。大小2種類があり、大きい方は10.8インチのタッチパネル、小さい方は5.5インチのタッチパネルを搭載しています。年内の発売を予定しているとのことです。
 東芝の欧州法人は、2010年9月にタブレット型汎用端末FOLIO 100を発表しました。10.1インチ、1,024×600ピクセルのタッチパネルを搭載し、寸法は281×181×14mm、重量は760gです。Webカメラを搭載し、無線LANとBluetoothに対応するほか、携帯電話網にも対応するモデルも発売する予定とのことです。標準搭載されているアプリケーションは、Webブラウザ、電子書籍リーダー、オフィススイート、VoIPなどです。

電子書籍用リーダー

 汎用端末で電子書籍を読むには、電子書籍のデータを表示するためのソフトウェア、電子書籍用リーダー(電子書籍リーダー)が必要となります。なお、「電子書籍リーダー」は、電子書籍を表示するソフトウェアを指すほか、電子書籍用端末を指す場合があるので、注意が必要です。
 電子書籍リーダーに求められる機能としては、電子書籍のデータの表示を基本として、拡大表示、縮小表示、表示するページの移動、しおりなどです。また、電子書籍のデータを管理するための機能として、持っている電子書籍の一覧表示や削除なども挙げられます。さらに、電子書籍の配信システムに接続して、電子書籍の購入などが行える機能を備えている場合もあります。

iBooks

 Appleが提供しているiPadやiPhoneなどに向けた電子書籍リーダーにiBooksがあります。iBooksは、入手した電子書籍を画面上の本棚に並べて整理でき、開いた本のページをめくるときは、画面を指でこするという、実際の本に近い操作を行います。また、しおり(ブックマーク)を付けるほか、メモも追加できます。十分な数の電子書籍が揃っているとは言い難い状況ですが、Appleが運営する電子書籍の配信システムiBookstoreから電子書籍をダウンロードして、読むことができます。なお、iBooksは、Appleが運営するアプリケーションのオンライン販売iTunes App Storeから無料でダウンロードできます。

i文庫HD

 日本国内で人気のあるiPad用電子書籍リーダーに、i文庫HDがあります。iBooksでは、横書き表示しかできませんが、i文庫HDは縦書き表示も可能です。ページめくりは、iBooksと同様に画面を指でこすることで行えます。さらにiPadを縦にすると縦書きの1ページが、iPadを横にすると見開きの2ページがディスプレイに表示されます。また、著作権の消滅した書籍などを電子化して無償公開している青空文庫に収録されている作品を簡単にダウンロードすることができるようになっています。i文庫HDは、iTunes App Storeから800円で購入し、ダウンロードできます(2010年9月6日現在)。

Adobe Reader

 PDFを閲覧するソフトウェアにAdobe Readerがあります。Windows、Mac OS X、Linuxなどに対応したバージョンがあります。いずれもAdobeのサイトから無償でダウンロードできます。PC向けのソフトウェアなので、操作はマウスやキーボードで行う必要があり、操作性の面ではiBooksやi文庫HDにはかないません。Adobe Reader以外にもPDFを表示できるソフトウェアなどがあります。例えば、PDFを表示する機能が搭載された携帯電話がありますし、iBooksやKindleでもPDFを表示できます。

電子書籍のデータ形式

 電子書籍のデータ形式は、すでに数多くあります。まずは、電子書籍のデータ形式(フォーマット)として標準になりつつあるEPUBとすでにビジネス文書などでは事実上の標準となっているPDFを紹介し、順次更新を行ってゆきたいと思います。

EPUB

 EPUB(イーパブ)は、電子出版の業界団体IDPF(International Digital Publishing Forum)が開発し、提唱している電子書籍のデータ形式(フォーマット)です。IDPFには、Adobeやソニーアメリカ法人、Apple、Google、Microsoft、ノキア、凸版印刷、大日本印刷などが加盟しています。EPUBの特長としては、無償で自由に利用できる、画面や文字の大きさに合わせてレイアウトが自在に変化する、利用者による独自な拡張が可能という3点を挙げることができます。EPUBを表示できる電子書籍リーダーは、前述のiBooksのほか、PC向けではAdobeのDigital Editionsがあります。また、電子書籍専用端末ではソニーのReaderがEPUBに対応しています。ただ、現在のバージョンでは、日本語の表示は可能であるものの、横書きしか対応していない、読みがななどのルビを表示できないなど、いくつかの課題があります。

PDF

 PDF(Portable Document Format)は、Adobeが開発し、提唱している電子文書向けのデータ形式(フォーマット)です。機器の違いに影響されずに、作成したとおりの文字や画像などを表示、印刷でき(必要に応じて、印刷できないように制限することも可能です)、これがPDFの最大の特長です。2008年には、国際標準ISO32000-1に採用されました。現在は、数多くのPDF作成ソフトウェアが提供されており、PDF作成ソフトウェアをインストールすることで、ワードプロセッサ、表計算、プレゼンテーション、組版、画像作成などのソフトウェアでPDFを作成できます。例えば、ワードプロセッサが縦書きやルビに対応していれば、縦書きやルビのあるPDFを作成可能です。一方、文字だけ、画像だけといった拡大は不可能で、常に作られた際のレイアウトで表示されます。これは短所にも長所にもなります。iBooksでは、バージョン1.1からPDFの表示が可能になったほか、Kindleでも表示することが可能です。

©KANEKO Hiromi

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